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       「成年後見制度の改正に関する要綱試案について」
                              平成10年4月
                              法務省民事局
1 成年後見制度の改正の必要性
・成年後見制度 現行民法=禁治産・準禁治産制度+後見・保佐制度
  *判断能力が不十分な者(痴呆性高齢者・知的障害者・精神障害者等)を保護する制度
・改正の必要性 高齢社会への対応及び障害者福祉の充実の必要性を背景とする柔軟かつ弾力的な利用しやすい制度に対する社会的要請
2 改正に関する検討の経緯及び予定
 *平成7年7月   法務省民事局内「成年後見問題研究会」検討開始
 *平成9年10月 法制審議会民法部会「成年後見小委員会」審議開始
 *平成10年4月14日 要綱試案の公表・関係各界に対する意見照会
 *平成11年 要綱の答申・通常国会に法案提出
3 要綱試案の概要
 (1) 基本的な理念 「自己決定の尊重の理念」と「本人の保護の理念」との調和
 (2) 禁治産・準禁治産制度の改正
   ア 三類型の制度化(補助類型の新設と現行の二類型の弾力化)
    @「補助」(新設)<対象者=軽度の痴呆・知的障害・精神障害等の状態にある者>
     *特定の法律行為について補助人の代理権又は本人の取消権等を設定
    A「保佐」(準禁治産に相当)<対象者=心神耗弱者>
     *保佐人に一定の範囲の代理権・取消権を付与
    B「後見」(禁治産に相当)<対象者=心神喪失の状況にある者>
     *後見人に広範な代理権・取消権(日常生活に必要な行為を除く)を付与
   イ 福祉関係の行政機関に対する申立権の付与の検討
   ウ 戸籍への記載に代わる新しい登録制度の創設の検討
   エ 各種法令の資格制限(欠格事由)の見直しの検討
 (3) 後見・保佐制度の改正─成年後見体制の充実
  ア 配偶者法定後見人制度の廃止 事案に応じた最適任者の選任
   イ 法人・複数成年後見人 法人・複数の成年後見人による成年後見事務の遂行
                選任の考慮事情(本人との関係等)の明文化
   ウ 身上監護 本人の身上に配慮すべき義務の明文化等
   エ 監督体制の充実 法人成年後見監督人の選任等
 (4) 任意後見制度(公的機関の監督を伴う任意代理制度)の法制化の検討
   ・任意後見契約=本人が判断能力低下後の事務に関する代理権を低下前に授権
   *公正証書による任意後見人の指定 → 本人の判断能力の低下
     → 家庭裁判所による任意後見監督人の選任
     → 任意後見監督人による任意後見人の監督


 「成年後見制度の改正に関する要綱試案」

第一 禁治産制度及び準禁治産制度の改正について
  「自己決定の尊重」の理念と「本人の保護」の理念との調和を旨として、各人の多様な判断能力及び保護の必要性の程度に応じた柔軟かつ弾力的な措置を可能とする利用しやすい制度を設計するために、@軽度の痴呆、知的障害、精神障害等の状態にある者を対象とし、保護の内容(代理権又は同意権・取消権)及び対象行為の範囲の選択を当事者の申立てにゆだねる新しい保護類型として「補助」類型(後記一)を新設するとともに、現行の二類型の内容を弾力化して名称を改め、A現行の準禁治産類型に相当する「保佐」類型(後記二)に関しては、新たに、保佐人に代理権及び取消権を付与した上で、保佐人の代理権の設定及び範囲の選択を当事者の申立てにゆだね、B現行の禁治産類型に相当する「後見」類型(後記三)に関しても、新たに、日常生活に必要な範囲の行為については、専ら本人の判断にゆだねて取消権の対象から除外することとし、次の三類型を制度化するものとする。

一 補助類型 (新設)
1 補助開始決定(新設)
 軽度の精神上の障害(軽度の痴呆、知的障害、精神障害等)により後記3又は4に定める保護を必要とする者(注1)については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、保佐人、後見人又は検察官(注2)の請求により、補助開始の決定をすることができるものとする。この場合において、本人以外の者の請求により決定をするときは、本人の同意を得なければならないものとする。
(注1)重度の身体障害により意思疎通が著しく困難であり、適切な奉不行為をすることができない者を補助類型の対象に含めることの適否については、なお検討するものとする。
(注2)福祉関係の行政機関に申立権を付与することについては、なお検討するものとする(後記二1及び三1においても同じ。)。
2 補助人(新設)
 補助開始の決定があった場合における本人(以下「被補助人」という。)には、補助人を付すものとする。
3 同意権及び取消権(新設)
 (1)家庭裁判所は、補助開始の決定の時に、又はその後に、前記1に掲げる請求権者又は補助人の請求により、その請求の範囲内において、特定の法律行為をするには補助人の同意を得なければならない旨を定めることができるものとする。この場合において、本人以外の者の請求によりその定めをするときは、本人の同意を得なければならないものとする。
 (2)家庭裁判所は、前記(1)の定めをした後に、前記1に掲げる請求権者又は補助人の請求により、その定めを取り消し、又はその請求の範囲内において補助人の同意を得なければならない行為の範囲を変更することができるものとする。この場合において、被補助人以外の者の請求により補助人の同意を得なければならない行為の範囲を拡張するときは、被補助人の同意を得なければならないものとする。
 (3)前記(1)又は(2)により補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が正当な理由なく同意を拒むときは、家庭裁判所は、被補助人の請求により、被補助人に対して補助人の同意に代わる許可を与えることができるものとする。
 (4) 前記(1)又は(2)により補助人の同意を得なければならない行為を被補助人が補助人の同意を得ないでしたときは、被補助人(注)は、これを取り消すことができるものとする。
  (注)補助人に取消権を付与することの適否については、なお検討するものとする。
4 代理権(新設)
 (1)家庭裁判所は、補助開始の決定の時に、又はその後に、前記1に掲げる請求権者又は補助人の請求により、その請求の範囲内において、特定の法律行為について補助人に代理権を付与することができるものとする。この場合において、本人以外の者の請求により補助人に代理権を付与するときは、本人の同意を得なければならないものとする。
 (2)家庭裁判所は、前記(1)により補助人に代理権を付与した後に、前記1に掲げる請求権者又は補助人の請求により、その代理権の付与を取り消し、又はその請求の範囲内において代理権の範囲を変更することができるものとする。この場合において、被補助人以外の者の請求により代理権の範囲を拡張するときは、被補助人の同意を得なければならないものとする。
5 決定の取消し(新設)
 補助の原因が止んだときは、家庭裁判所は、前記1に掲げる請求権者又は補助人の請求により、補助開始の決定を取り消さなければならないものとする。

二 保佐類型
1 保佐開始決定(民法第十一条、第十三条関係)
 心神耗弱者(注)については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、補助人、後見人又は検察官の請求により、保佐開始の決定をすることができるものとする。
(注)浪費者は、保佐類型の対象とはしないものとする。「心神耗弱」 の用語については、なお検討するものとする。
2 保佐人(民法第十一条関係)
 保佐開始の決定があった場合における本人(以下「被保佐人」という。)には、保佐人を付すものとする。
3 同意権及び取消権(民法第十二条関係)
 (1)被保佐人は、次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならないものとする。
 @ 元本を領収し、又は利用すること。
 A 借財又は保証をすること。
 B 不動産又は重要な動産その他の財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
 C 訴訟行為をすること。
 D 贈与、和解又は仲裁契約をすること。
 E 相続を承認し、又は放棄すること。
 F 遺産の分割をすること。
 G 贈与の申込みを拒絶し、若しくは遺贈を放棄し、又は負担付贈与の申込みを承諾し、若しくは負担付遺贈を承認すること。
 H 新築、改築、増築又は大修繕に関する契約をすること。
 I 第六百二条に規定する期間を超える賃貸借をすること。
(注)前記釘からRまでの列挙事項(民法第十二条第一項に規定する行為)の見直しの要否については、なお検討するものとする。
 (2)家庭裁判所は、前記(1)に掲げる行為以外の行為をするにも、保佐人の同意を得 なければならない旨を定めることができるものとする。
 (3)家庭裁判所は、前記(2)の定めをした後に、前記1に掲げる請求権者又は保佐人 の請求により、その定めを取り消し、又はその請求の範囲内において、その定めにより保佐人の同意を得なければならないものとされた行為の範囲を変更することができるものとする。
 (4)前記(1)から(3)までにより保佐人の同意を得なければならない行為について、保 佐人が正当な理由なく同意を拒むときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、被保佐人に対して保佐人の同意に代わる許可を与えることができるものとする。
 (5)前記(1)から(2)までにより保佐人の同意を得なければならない行為を被保佐人が保佐人の同意を得ないでしたときは、被保佐人又は保佐人は、これを取り消すことができるものとする。
4 代理権(新設)
 (1)家庭裁判所は、保佐開始の決定の時に、又はその後に、前記1に掲げる請求権者又は保佐人の請求により、その請求の範囲内において、前記3(1)から(3)までにより保佐人の同意を得なければならない行為の全部又は一部について保佐人に代理権を付与することができるものとする。この場合において、本人以外の者の請求により保佐人に代理権を付与するときは、本人の同意を得なければならないものとする。
 (2)家庭裁判所は、前記(1)により保佐人に代理権を付与した後に、前記1に掲げる請求権者又は保佐人の請求により、その代理権の付与を取り消し、又はその請求の範囲内において代理権の範囲を変更することができるものとする。この場合において、被保佐人以外の者の請求により代理権の範囲を拡張するときは、被保佐人の同意を得なければならないものとする。
5 決定の取消し(民法第十三条関係)
 保佐の原因が止んだときは、家庭裁判所は、前記1に掲げる請求権者又は保佐人  の請求により、保佐開始の決定を取り消さなければならないものとする。

三 後見類型
1 後見開始決定(民法第七条関係)
 心神喪失の常況にある者(注)については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、補助人、保佐人、未成年後見人又は検察官の請求により、後見開始の決定をすることができるものとする。
 (注) 「心神喪失」 の用語については、なお検討するものとする。
2 後見人(民法第八条関係)
 後見開始の決定があった場合における本人(以下「被後見人」という。)には、後見人を付すものとする。
3 取消権(民法第九条関係)
 被後見人の行為は、被後見人又は後見人が取り消すことができるものとする。ただし、日常の生活に必要な範囲の行為は、この限りでないものとする。
4 代理権(民法第八百五十九条第一項関係)
 後見人は、被後見人の財産に関するすべての法律行為について、被後見人を代理することができるものとする。
5 決定の取消し(民法第十条関係)
 後見の原因が止んだときは、家庭裁判所は、前記1に掲げる請求権者又は後見人の請求により、後見開始の決定を取り消さなければならないものとする。
(以下、補助、保佐及び後見の開始決定を総称して「成年後見開始決定」といい、補助、保佐及び後見の開始請求を総称して「成年後見開始請求」という。)
(後注)
(1) 本人の心神の状況に関する認定方法に関しては、補助類型においては原則として鑑定を要しないものとし、保佐類型及び後見類型においては一定の要件を満たす場合には例外的に鑑定を要しないものとすることについて、なお検討するものとする。
(2) 成年後見開始請求があった場合における本人の審問に関しては、その要件及び方法について、なお検討するものとする。
(3) 成年後見開始決定の審判を本人に告知することについて、なお検討するものとする。
(4) 成年後見開始決定等に関する公示方法については、戸籍への記載に代わる新しい登録制度を創設することの適否を含めて、なお検討するものとする。
(5) 現行の禁治産者及び準禁治産者に関しては、現行法令上、多数の資格制限が規定されているが、新しい成年後見制度の下における資格制限の在り方については、その範囲を縮減する方向で検討するものとする。


第二 後見制度及び保佐制度の改正について
(以下、補助人、保佐人及び後見人を総称して「成年後見人」といい、後記三4の補助監督人及び保佐監督人並びに後見監督人を総称して「成年後見監督人」という。)

一成年後見人の選任について
1 配偶者法定後見人制度の廃止(民法第八百四十条、第八百四十七条第一項関係) 家庭裁判所が事実に応じて最も適任と認められる者を成年後見人に選任することができるようにするため、配偶者が当然に後見人となる旨を定める民法第八百四十条の規定を削除するものとする。
2 複数成年後見人制度の導入(民法第八百四十三条、第八百四十七条第一項関係)
 複数の成年後見人を選任することができるようにするため、後見人の人数を一人に制限する民法第八百四十三条の規定を削除するとともに、複数の成年後見人の権限関係を明確にするため、次のアからウまでの趣旨の規定を設けるものとする。
 ア 複数の成年後見人が選任されたときは、各成年後見人は、それぞれ単独でその権限を行使することができるものとする。ただし、家庭裁判所は、本人、成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により又は職権で、各成年後見人が共同してその権限を行使すべき旨又は各成年後見人が職務を分馨してその権限を行使すべき旨を定めることができるものとする。
 イ 家庭裁判所は、本人、成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により又は職権で、前記アただし書に基づいてした定めを取り消すことができるものとする。
 ウ 複数の成年後見人が代理権を有するときは、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りるものとする。
3 法人成年後見人制度の明文化(新設)
 法人を成年後見人に選任することができることを法文上明らかにするものとする。
 (注)家庭裁判所は、本人との関係において適切な法人を成年後見人に選任するため、後記4(3)例のとおり、同4(3)に掲げる諸事情を考慮するものとする。

4 成年後見人の選任手続(民法第八百四十一条、第八百四十七条第一項関係)
(1)家庭裁判所は、成年後見開始決定をするときは、職権で、成年後見人を選任しなければならないものとする(民法第八百四十一条前段、第八百四十七条第一項関係)。
(2)成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、本人の親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任しなければならないものとする(民法第八百四十一条後段、第八百四十七条第一項関係)。
(3)家庭裁判所は、本人の財産及び生活の状況、成年後見人となるべき者の職業又は事業及び資産の状況、本人と成年後見人となるべき者との関係、成年後見人の選任に関する本人の陳述及び成年後見人となるべき者の意見その他一切の事情を考慮して、成年後見人を選任するものとする(民法第八百四十一条関係)。
5 成年後見人及び成年後見監督人の欠格事由(民法第八百四十六条第二号、第八百四十七条第一項、第八百五十二条関係)
 保佐及び後見の開始決定については、成年後見人及び成年後見監督人の欠格事由とはしないものとする。

二 成年後見人の職務等について
1 財産管理(民法第八百五十九条第一項関係)
成年後見人は、その権限の範囲に応じて、本人の財産を管理する権限を有するものとする。
2 身上監護及び本人の意思の尊重(新設。民法第八百五十八条関係)
 財産管理(契約の締結、費用の支払等に関する職務)と身上監護(医療、住居の確保、施設の入退所、介護・生活維持、教育・リハビリ等に関する職務) の密接不可分な関連性を考慮して、次の(1)のとおり、現行の民法第八百五十八条の規定に加えて、成年後見人の権限(代理権・財産管理権等)の行使に当たって本人の身上に配慮すべき旨の身上監護に関する一般的な規定を創設するとともに、その中で本人の意思の尊重についても併せて規定するものとする。さらに、身上監護に関する個別的規定として、本人の住居の確保を保障する観点から、次の(2)のとおり、成年後見人による本人の居住用不動産の処分等の行為について、家庭裁判所の許可を要する旨の規定を設けるものとする。
 (1)成年後見人は、その権限を行使するに当たって、本人の福祉を旨として、本人の意思を尊重し、かつ、自己の権限の範囲に応じて本人の身上に配慮しなければならないものとする。(注)後見人の療養看護義務等に関する民法第八百五十八条の規定は、後見類型に特有の規定として、現行どおり維持するものとする。
 (2)成年後見人が本人に代わって本人の居住の用に供する不動産に関する売却、賃貸、賃貸借契約の解除、抵当権の設定その他これらに準ずる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならないものとする。
3 成年後見の費用(新設)
 成年後見人が成年後見事務を処理するために必要な費用は、本人の財産から支弁する旨の明文の規定を設けるものとする。
4 成年後見人の報酬(新設。民法第八百六十二条関係)
 補助人及び保佐人の報酬については、後見人の報酬に関する民法第八百六十二条の規定を準用するものとする。

三 成年後見監督人制度について
1 後見監督人の選任(民法第八百四十九条関係)
 後見監督人がない場合において必要があると認めるときは、家庭裁判所は、被後見人の親族又は後見人の請求によるほか、職権で後見監督人を選任することができるものとする。後見監督人が欠けた場合も、同様とする。
2 後見監督人の報酬(民法第八百五十二条関係)
 後見監督人の報酬については、成年後見人の報酬に関する民法第八百六十二条の規定を準用するものとする。
3 法人後見監督人制度の明文化(新設)
 法人を後見監督人に選任することができることを法文上明らかにするものとする。
4 補助監督人及び保佐監督人の制度(新設)
 補助人及び保佐人にも一定の範囲の代理権・財産管理権等が認められるので、これらを監督するため、補助監督人及び保佐監督人の制度を新設し、その選任、職務、報酬等について後見監督人に関する主要な規定を準用するとともに、補助人及び保佐人の権限の範囲に即した監督権限を定める規定を設けるものとする。


第三 公的機関の監督を伴う任意代理制度(任意後見制度) について
 次のような公的機関の監督を伴う任意代理制度(任意後見制度)を法制化することについて、なお検討するものとする。
 (以下、前記第一の補助、保佐及び後見を総称して 「法定後見」という。)

一 任意後見契約の締結
1 法定後見の開始決定を受けていない者は、自己に関する法律行為の全部又は一部について、後記二の家庭裁判所による任意後見監督人の選任を停止条件として代理権を付与する委任契約(以下「任意後見契約」という。)を締結することができるものとする (以下、任意後見契約の受任者を 「任意後見人」という。)。
2 任意後見契約は、公正証書によってしなければならないものとする。
3 法人が任意後見人となることができることを法文上明らかにするものとする。
 (注)前記1の 「自己に関する法律行為」 には、財産管理に関するもの及び身上監護に関するものの双方が含まれるものとする。

二 任意後見監督人の選任
1 任意後見契約を締結した本人が法定後見の類型に該当する心神の状況(注) にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見人又は検察官の請求により、任意後見監督人を選任することができるものとする。この場合においては、本人がその意思を表示することができない場合を除き、本人の同意を得なければならないものとする。(注)本人の心神の状況については、少なくとも補助類型に該当する程度以上の精神上の障害(痴呆・知的障害・精神障害等)が認められれば足りるものとする。本人の心神の状況に関する認定方法に関しては、原則として鑑定を要しないものとすることについて、なお検討するものとする。
2 法人を任意後見監督人に選任することができることを法文上明らかにするものとする。

三 任意後見監督人の監督事務等
1 任意後見監督人は、任意後見人の事務を監督するものとする。
2 任意後見監督人は、任意後見人の事務について、定期的に、又は家庭裁判所の請 求に応じて、家庭裁判所に報告をしなければならないものとする。
3 任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があると きは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、配偶者、四親等内の親族又は検察官の請求により、任意後見人を解任することができるものとする。

四 法定後見との関係の調整
1 法定後見の開始請求に係る本人が法定後見の類型に該当する心神の状況にあると 認める場合であっても、本人が任意後見契約を締結しているときは、家庭裁判所は、法定後見の開始決定をしないものとする。ただし、後記2に掲げる者の請求による場合は、この限りでないものとする。
2 任意後見契約を締結した本人について法定後見による保護が必要であるときは、 本人、任意後見人(注)、任意後見監督人又は検察官は、法定後見の開始請求をすることができるものとする。この場合において、法定後見の開始決定がされたときは、任意後見契約は終了するものとする。(注)任意後見監督人が選任された後に、任意後見人が民法第六百五十一条第一項の規定に基づいて任意後見契約を解除するには、正当な事由がなければならないものとすることの適否について、なお検討するものとする。

以 上


「成年後見制度の改正に関する要綱試案の概要」
                              平成10年4月14日
                             法務省民事局参事官室
1 成年後見制度の改正の背景
 成年後見制度は、判断能力の不十分な成年者(痴呆性高齢者・知的障害者・精神障害者等)を保護するための制度であり、現行民法上は、禁治産・準禁治産制度及びこれを前提とする後見・保佐制度が設けられている。
 現行の制度は、本人の保護の理念に重点を置いた制度であるが、今日では、種々の観点から利用しにくい制度になっているとの指摘がされており、高齢社会への対応及び障害者福祉の充実のための施策の一環として、柔軟かつ弾力的な利用しやすい制度にする ことへの社会的な要請が高まっている。欧米諸国においても、近年、各国の実情に即した成年後見立法が相次いでおり、このような内外の状況を踏まえて、自己決定の専重、残存能力の活用、ノーマライゼーション(障害のある人も家庭や地域で通常の生活をすることができるような社会をつくるという理念)等の新しい理念と従来の本人の保護の理念との調和を旨とする法改正の必要性が提唱されている。

2 成年後見制度の改正に関する検討の経緯及び今後の予定
 前記1の背景を踏まえて、法務大臣の諮問機関である法制審議会の民法部会は、平成了年6月に、成年後見問題を検討課題として取り上げる旨の決定をするとともに、その審議の基礎となる調査研究を行うことを目的として、法務省民事局内に研究会を設置することを決定した。これに基づいて、同年7月、民事局内に「成年後見問題研究会」(座長・星野英一東京大学名誉教授)が設置され、同研究会は、民法学者、弁護士及び裁判官のはか、最高裁判所及び法務省の担当者を構成員とし、厚生省の担当者をオブザーバーとして、約2年間にわたって基礎的な調査研究(関係諸団体からの意見聴取、諸外国における立法の実態調査等を含む。)を行い、昨年9月にその検討結果を取りまとめた報告書を作成した。法務省民事局は、同月30日、法制審議会民法部会において同研究会の調査研究結果を報告した上で、同報告書を公表した。
 法制審議会民法部会は、同日、この報告を受けて、財産法小委員会及び身分法小委員会の各委員・幹事の一部のほか、福祉関係者(老人福祉団侃 障害福祉団体〔知的障害関係・精神障害関係〕、権利擁護機関、社会福祉協議会及び厚生省担当者)を含む一般有識者の参加を得た「成年後見小委員会」を新たに設置し、昨年10月以降、成年後見制度の改正に関する本格的な審議を行っており、本年4月14日、同小委員会における現時点の検討結果を取りまとめた要綱試案を了承・公表した。これは、成年後見制度の改正については、国民生活との密接な関わりがあることから、審議の中間段階において要綱試案を公表し、福祉関係団体等をはじめとする関係各界に対して意見照会を行うこ とが必要であるとされたものである。今後は、平成11年初頭までに改正要綱の答申を 得て同年の通常国会に成年後見制度の改正のための民法改正法案等を提出することがて きるよう、関係各界の意見を十分に踏まえつつ審議・検討を進めていく予定である。

3 要綱試案の概要
 「成年後見制度の改正に関する要綱試案」(以下「試案」という。)は、法制審議会民法部会(成年後見小委員会)の成年後見制度の改正の方向に関する現時点における検討結果を取りまとめたものである。試案は、自己決定の尊重の理念(残存能力の活用、ノーマライゼーション等の理念を含む。)と本人の保護の理念との調和を旨として、柔軟かつ弾力的な利用しやすい制度を設計するため、基本的には民法の改正の形式により、次のような制度の改正を行うことを提案している。以下、主要な論点を概観するが、試案中において「なお検討する」とあるのは、意見照会の結果等を踏まえて今後更に検討すべき論点という趣旨である。
(1)禁治産制度及び準禁治産制度の改正について(試案第−)
ア 三類型の制度化と弾力化   「補助」類型の新設と現行の二類型の弾力化
 試案は、自己決定の尊重の理念と本人の保護の理念との調和を旨として、各人の多様な判断能力及び保護の必要性の程度に応じた柔軟かっ弾力的な措置を可能とする利用しやすい制度を設計することとしている。
 具体的には、@軽度の痴呆、知的障害、精神障害等の状態にある者を対象とし、保護の内容(代理権又は同意権・取消権)及び対象行為の範囲の選択を当事者の申立てにゆだねる新しい保護類型として「補助」類型を新設するとともに、現行の二類型の内容を弾力化して名称を改め、A現行の準禁治産類型に相当する「保佐」類型に関しては、新たに、保佐人に代理権及び取消権を付与した上で、保佐人の代理権の設定及び範囲の選択を当事者の申立てにゆだね、B現行の禁治産類型に相当する「後見」類型に関しても、新たに、日常生活に必要な範囲の行為を専ら本人の判断にゆだねて取消権の対象から除外することとし、次の三類型を制度化するものとしている(試案第一)。
@ 補助類型    補助人の選任(試案第−、−)
 新設の類型であり、心神耗弱には至らないがなお判断能力が不十分であるために保護を必要とする者(軽度の精神上の障害〔軽度の痴呆・知的障害・精神障害・自閉症等〕により代理権又は同意権・取消権による保護を必要とする者)を対象とし、申立てにより、特定の法律行為について代理権又は同意権・取消権の一方又は双方を付与することができるものとする。
 このように、当事者の選択による補助人の一部代理権等の設定を可能とするとともに、本人の同意又は申立てを決定の要件とすることにより、自己決定の尊重の理念に沿った柔軟かっ弾力的な保護の方法を制度的に担保している。
 自己決定の尊重の理念を徹底して本人のみに取消権を付与することとするか、本人保護の実効性の観点から本人・補助人の双方に取消権を付与することとするかについては、なお検討するものとしている(試案第一、一3(4)(注))。
 本人の状況の変化に応じて、申立てにより、代理権又は同意権・取消権の追加又は範囲の変更等が可能である(試案第一、一3(1)(2)、4(1)(2))。
 本人の心神の状況に関する認定方法に関しては、原則として鑑定を要しないものとすることについて、なお検討するものとしている(試案第一(後注)(1))。
A 保佐類型   保佐人の選任(試案第一、ニ)
 現行の準禁治産類型に相当する類型であり、心神耗弱者を対象とし、現行どおり民法第12条第1項所定の法律行為(借財、不動産の処分等)に関する同意権が保佐人に付与されるが、新たに、本人保護の実効性の観点から、同意権の対象となる法律行為について保佐人に取消権を付与するとともに、申立てにより特定の法律行為について保佐人に代理権を付与することもできるものとする。
 このように、当事者の選択による保佐人の一部代理権の設定を可能とするとともに、代理権の付与について本人の同意又は申立てを要件とすることにより、自己決定の尊重の理念に沿った柔軟かつ弾力的な保護の方法を制度的に担保している。
 本人の状況の変化に応じて、申立て等により、代理権の追加又は範囲の変更等、同意権・取消権の範囲の拡張等が可能である(試案第一、二3(2)(3)、4(1)(2))。
B 後見類型   後見人の選任(試案第−、三)
 現行の禁治産類型に相当する類型であり、心神喪失の常況にある者を対象とし、本人保護の実効性の観点から、基本的には全面的な代理権・取消権が後見人に付与されるが、新たに、自己決定の尊重の観点から、日常生活に必要な範囲の行為については、専ら本人の自己責任にゆだねて取消権の対象から除外するものとする(試案第一、三3)。
 以上のとおり、試案の三類型に関しては、本人の判断能力の程度に応じて一応つの類型への振り分けを行った上で、各類型の中で各人の判断能力及び保護の必要性の程度に応じた個別的な調節を行うものであり、一元的制度の趣旨を活かして、具体的な適用の場面においては、各人ごとの個別の状況に応じた弾力的な保護の内容・範囲の設定を可能とするものである。また、軽度の痴呆・知的障害・精神障害等の状態にある者を対象とする類型(前記@)にあっては、自己決定の尊重の観点から、保護の内容・範囲を全面的に当事者の自己決定・選択にゆだね、重度の痴呆・知的障害・精神障害等(心神喪失・心神耗弱)を対象とする類型(前記AB)にあっては、本人保護の実効性の観点から、一定の範囲の保護の内容を法定し、当事者の自己決定・選択にゆだねる範囲と併存させており、判断能力の程度に応じて当事者の判断と責任にゆだねる範囲を調節している。
(以下.前記アの補助人 保佐人及び後見人を総称して「成年後見人」といい、後記(2)オの補助監督人、保佐監督人及び後見監督人を総称して「成年後見監督人」という。)
イ 福祉関係の行政機関の申立権
 身寄りのない痴呆性高齢者・知的障害者・精神障害者等に対する迅速かつ適切な成年後見の開始を制度的に確保する観点から、試案では、福祉関係の行政機関に申立権を付与することについて、なお検討するものとしている(試案第一、一1(注2))。
ウ 戸籍への記載
 戸籍への記載については、国民に心理的抵抗感があり、それが制度の利用の障碍となっているとの意見があることから、このような意見に配慮して、試案では、戸籍への記載に代わる新しい登録制度を創設することについて、その適否を含めてなお検討するものとしている(試案第一(後注)(4))。
エ 資格制限(欠格事由)  
 現行の禁治産者・準禁治産者に関しては、現行法令上、多数の資格制限(欠格事由)が規定されており、これに対する国民の心理的抵抗感が制度の利用の障碍となっていることを考慮して、試案では、資格制限の範囲を縮減する方向で検討するものとしている(試案第一(後注)(5))。    l
 現行民法の中にも、禁治産・準禁治産の宣告を受けたことを後見人・保佐人及び後見監督人の欠格事由とする旨の資格制限の規定(第846条第2号、第847条第1項、第852条)があるが、これらの者は、家庭裁判所による選任・監督の手続を通して適任者の確保が十分に可能であるので、試案では、保佐及び後見の開始決定については、成年後見人及び成年後見監督人の欠格事由とはしないものとしている(試案第二、一5)。このように、今回の成年後見制度の改正に際しては、現行法令中の資格制限の規定をすべて見直し、当該法令の定める資格審査(能力審査)の手続(任免、選任・監督、資格試験、登録の付与・取消し等)により対象者の能力が十分に担保されていると認められる場合には、保佐・後見の開始決定を受けたことを欠格事由とはしない方向で検討が行われることが望まれるところである。また、新設の補助類型については、現行法令上何らの資格制限も付されていない者(現行の準禁治産者より判断能力の程度の高い者)を対象とするものであるので、ノーマライゼーションの理念等の観点から、資格制限を付さない方向で関係各界の理解を得られることが期待されるところで ある。
(注)制度の対象者については、次のような検討がされた。
@ 浪費者
 現行法は、浪費者を準禁治産宣告の対象としている(民法第11条)が、私的自治の原則に対する私法上の規制は、判断能力の不十分な者に関する必要最小限の範囲に限定するという立法政策等の観点から、試案では、浪費者を保佐類型の対象とはしないものとしている(試案第一、二1(注))。これは、単に浪費者であることを保佐類型の要件とはしないという趣旨であり、浪費者の中で判断能力の不十分な者のみが補助開始決定等を受けることになる。
A 身体障害者
 昭和54年の民法改正により、「聾者」「唖者」「盲者」を準禁治産宣告の対象から除外する旨の改正がされた経緯(身体障害者の差別及び取引上の不利益につながるとして、視聴覚・言語機能障害者自身が規定の削除を求める請願・運動等を行い、改正に至った。)、前記@の立法政策等を考慮すると、身体障害者を一律に成年後見制度の対象とすることは相当ではないと考えられる。なお、試案では、重度の身体障害により意思疎通が著しく困難であり、適切な表示行為をすることができない者を新設の補助類型の対象に含めることの適否については、なお検討するものとしており(試案第一、一1(注1))、この点に関しては、ノーマライゼーションの理念に即した身体障害者の権利擁護の在り方全般を視野に入れながら検討していく必要があるものと考えられる。
(2)後見制度及び保佐制度の改正について(試案第二)
ア 配偶者法定後見人制度の廃止
 現行法では、配偶者のある禁治産者・準禁治産者については、必ず配偶者が後見人・保佐人になるものとされている(民法第840条、第847条第1項)が、特に痴呆性高齢者等の場合には、配偶者も相当高齢に達していることが多く、必ずしも配偶者が常に適任とは限らないことから、試案では、家庭裁判所が事案に応じて最も適任と認められる者を成年後見人に選任することができるようにするため、配偶者が当然に後見人となる旨を定める民法第840条の規定を削除するものとしている(試案第二、一1)。
イ 複数成年後見人制度の導入及び法人成年後見人制度の明文化
 現行法では、後見人・保佐人は「一人」でなければならないとされている(民法第843条、第847条第1項)ため、複数の後見人・保佐人を選任することはできず、また、法人を後見人・保佐人に選任することの可否については解釈上疑義がある。
 試案では、利用者の多様なこ−ズに応える保護・支援の方策として、成年後見の体制についての選択肢を広げる観点から、@複数の成年後見人を選任することができるようにするため、後見人の人数を一人に制限する民法第843条の規定を削除する(試案第二、一2)とともに、A法人(例えば、社会福祉協議会等)が成年後見事務を遂行することを可能にするため.法人を成年後見人に選任することができることを法文上明らかにする(試案第二、一3)ものとしている。
ウ 成年後見人の選任の考慮事情の明文化
 本人との利益相反のおそれのない信頼性の高い個人・法人が成年後見人に選任されることを手続的に担保するため、試案では、成年後見人の選任に当たって家庭裁判所が考慮すべき事情として、「本人と成年後見人となるべき者との関係」、「成年後見人となるべき者の職業又は事業及び資産の状況」、「成年後見人の選任に関する本人の陳述及び成年後見人となるべき者の意見」等の事情を例示的に列挙することにより、成年後見人の選任の考慮事情を明文化するものとしている(試案第二、一4(3))。
エ 身上監護及び本人の意思の尊重
 現行法では、身上監護に関しては、禁治産類型の後見人のみが本人に対する療養看護義務を負うものとされている(民法第858条第1項)。
 試案では、@財産管理(契約の蹄結、費用の支払等に関する職務)と身上監護(医療、住居の確保、施設の入退所、介護・生活維持、教育・リハビリ等に関する職務)の密接不可分な関連性を考慮して、現行の民法第858条の規定に加えて、成年後見人は、その権限(代理権・財産管理権等)を行使するに当たって、自己の権限の範囲に応じて本人の身上に配慮すべき義務がある旨の一般的な規定を創設する(個別の事項については、当該規定の解釈で読み込む)とともに、Aその規定の中で、本人の意思の尊重に関する成年後見人の責務についても併せて規定するものとしている(試案第二、二2(1))。
 また、試案では、身上監護に関する個別的規定として、本人の住居の確保を保障する観点から、成年後見人による本人の居住用不動産の処分等の行為(売却、賃貸、賃貸借契約の解除、抵当権の設定等)について、家庭裁判所の許可を要する旨の規定を設けるものとしている(試案第二、二2(2))。
オ 成年後見監督人制度の充実
 成年後見人に対する監督体制の充実の観点から、試案では、@後見類型における現行の後見監督人に加えて、補助・保佐の各類型についても補助監督人・保佐監督人の制度を新設する(試案第二、三4)とともに、A法人を成年後見監督人に選任することができることを法文上明らかにし(試案第二、三3)、B成年後見事務の適正を期するために必要があるときは、家庭裁判所が職権で成年後見監督人を選任することができるものとする(試案第二 三1)など、所要の規定の整備を行うものとしている。
(3)公的機関の監督を伴う任意代理制度(任意後見制度)について(試案第三)
 現行民法の解釈上は、本人の意思能力喪失後も任意代理権は消滅しないものと解するのが通説であるが、本人の判断能力が低下した後は、本人が自ら任意代理人を監督することはできず、権限濫用のおそれがあるため、実際には、判断能力低下後の事務に関する代理権をその低下前に授権する委任契約は、利用することが拇難であるのが実情である。そこで、近年、本人の判断能力低下後における任恵代理人に対する公的機関の監督の枠組みを制度化して、任意代理人の権限濫用の防止を制度的に保障することにより、そのような委任契約の活用を図るべきであるとする見解が主張されている。
 このような公的機関の監督を伴う任意代理制度は、英米法系譜国において最近導入された「継続的(持続的)代理権」制度に着想を得て提案されたものであり、法定の後見制度と対比して、「任意後見」制度と称されている。
 試案では、公的機関の監督を伴う任意代理制度(任意後見制度)を法制化することの要否について、実現可能な具体案を示した上で、なお検討するものとしており(試案第三)、その採否については、関係各界に対する意見照会の結果等を踏まえて最終的な決定がされる予定である。
 試案に示された任意後見制度の概要は、次のとおりである。
(以下、前記(1)の補助・保佐・後見を総称して「法定後見」という。)
ア 任意後見契約(任意後見人との契約)の締結(試案第三、一)
 後記イの「任意後見監督人」制度の創設を前提とした上で、「自己に関する法律行為の全部又は一部について、家庭裁判所による任意後見監督人の選任を俸止条件として代理権を付与する委任契約」を「任意後見契約」といい、また、その受任者を「任意後見人」という。
 公証人の関与により適法かっ有効な契約の緯結及びその確実な立証を確保する等の観点から、任意後見契約は、公正証書によることを要するものとする。
@ 本人
 法定後見との抵触・重複の回避の観点から、任意後見契約を綿結することができるのは、法定後見の開始決定を受けていない者に限るものとする。
A 任意後見人
 法人が任意後見人になることができることを法文上明らかにするものとする。
イ 任意後見監督人の選任(試案第三、ニ)
 実効的な監督機能を担保するため、家庭裁判所の選任する「任意後見監督人」の制度を創設するものとする。
 任意後見契約を蹄結した本人について少なくとも補助類型に該当する程度以上の痴呆・知的障害・精神障害等が認められるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見人又は検察官の申立てにより、本人の同意を得た上で(本人が表意不能の場合を除く。)、任意後見監督人を選任することができるものとする。
@ 本人の心神の状況に関する認定方法
 原則として鑑定を要しないものとすることについて、なお検討するものとする。
A 任意後見監督人
 法人が任意後見監督人になることができることを法文上明らかにするものとする。
ウ 仕意後見監督人の監督事務等(試案第三.三)
 任意後見監督人は、任意後見人の事務を監督するとともに、任意後見人の事務について、家庭裁判所に報告する義務を負うものとする。
 任意後見人に不適任の事由があるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、配偶者、四親等内の親族又は検察官の申立てにより、任意後見人を解任することができるものとする(任意後見人の解任により、任意後見契約は当然に終了する。)。
エ 法定後見との調整(試案第三.四)
 自己決定の尊重等の観点から、本人が任意後見契約を綿結しているときは、原則として、法定後見開始の申立てがあっても、家庭裁判所は、法定後見の開始決定をしないものとする。
 ただし、法定後見との合理的な調整等の観点から、任意後見契約を蹄結した本人について法定後見による保護が必要であるときは、本人、任意後見人、任意後見監督人又は検察官は、法定後見開始の申立てをすることができ、その申立てにより法定後見の開始決定がされたときは、任意後見契約は当然に終了するものとする。
 なお、本人保護の実効性を確保する観点から、任意後見監督人の選任後における任意後見人の辞任(民法第651条第1項の規定に基づく任意後見契約の解除)に関して、正当な事由を要件とする旨の制限を設けることの適否については、なお検 討するものとする。
(参考)
*別表1 <補助・保佐・後見の三類型の概要>
*別表2 <公的機関の監督を伴う任意代理制度(任意後見制度)の概要>
*別表3 <補助・保佐・後見の三類型と任意後見制度の対応関係>戻る